上顎癌切除後の骨欠損部へサージカルステントを用いて頬骨インプラントを植立した1例
○栗原祐史,代田達夫,重原 聡,尾関雅彦,馬場一美,新谷悟

目的

 上顎腫瘍切除症例の顎補綴治療においては審美性,咀嚼機能の回復のみならず,口蓋の形態変化に伴う舌の接触異常や軟口蓋の機能不全による発音や嚥下障害に対しても補綴的に改善する必要がある。しかし,骨欠損が広範囲であり既存骨が限られている場合には,従来の顎義歯による補綴治療では困難なことが多い。
 近年,歯科用インプラントの顎顔面補綴領域への応用が増加しているが,広範囲な上顎骨欠損に対しては頬骨インプラントを併用することで,高い顎口腔機能の回復が可能となり,患者のQOL向上に寄与できると考える。しかし,腫瘍等による顎骨欠損例での頬骨インプラントでは,残存骨量や解剖学的形態により,理想的な位置への埋入が困難な場合がある。そこで今回,光造形三次元モデルを利用したサージカルガイドを用いて頬骨インプラントの埋入を行ったところ,良好な結果を得たので報告する。

対象と方法

 患者は初診時68歳男性,右側上顎歯肉の腫脹を主訴として,2006年10月に当科を受診した。病理組織検査の結果,右側上顎歯肉扁平上皮癌(T4N0M0, StageⅣ)と診断され,同年11月,右側上顎部分切除術を施行した。治癒期間を待ち,顎義歯を作成したが,義歯の安定が得られず摂食および発音機能の改善が困難であった。術後の放射線化学療法を行った後,約3年の経過観察を行い,インプラントを用いた補綴治療を予定した。
 光造形モデルを利用し,設計した埋入位置を反映させたサージカルガイドを作成し,左右頬骨部に頬骨インプラントを,また,既存骨に歯科用インプラントを埋入した。


結果

2009年7月,全身麻酔下にて両側頬骨インプラント埋入術および前歯部,左側上顎結節部に計3本のインプラント埋入術を施行した。サージカルガイドの装着は良好であり,シミュレーション通りの埋入が可能であった。すべてのインプラントの初期固定も良好であった。術後約9ヶ月の治癒期間をおき,通法に従い,2次手術,暫間義歯装着を行い,術後約18ヶ月にて磁性アタッチメントを用いた可撤式の最終補綴物を装着した。咀嚼機能,発音障害も改善し,経過良好である。

考察及び結論

 頬骨へのインプラント埋入は,眼窩や翼突静脈叢への穿孔などのリスクが高く,使用するインプラントの長さにより,埋入深度や方向などの安定性が得にくいなどの問題がある。特にそこで本症例においては,光造形三次元モデルを作成し,咬合器上にマウントすることで,コンピューター上でのシミュレーションを基準とした埋入位置の設計や三次元的な位置関係の把握などが可能となり,術前の治療計画の立案に有用であった。また,サージカルガイドを使用することにより,埋入操作が安全かつ確実に行うことが可能であった。



参考文献
1) Shirota T, Shimodaira O: Int J Oral Maxillofac Surg., 40(1): 113-7, 2011.
2) Schiroli G, Angiero F: J Oral Maxillofac Surg., 2011.
3) Boyes-Varley JG, Howes DG: Int J Oral Maxillofac Implants., 18(2):232-7., 2003.

2)Department of Prosthodontics, School of Dentistry, Showa University